
非ヒト霊長類の脳コネクトームを可視化 | 理化学研究所
理研らの国際共同研究グループは、マカクサルなどの中型霊長類動物の脳の機能・構築を生きたまま解明するMRIの撮像法や解析技術を開発し、大脳皮質や皮質下構造物の構造・機能・連絡性(コネクトーム)の可視化に成功しました。
脳の配線図コネクトームは、神経細胞が302個しかない線虫で、ほぼ完全なものが1986年に描かれました。
配線のつなぎ目は、光で見る顕微鏡では形が見分けられないほど小さなものです。
そんなものを、いったいどうやって描くのでしょうか。なぜ線虫なら描けたのでしょうか。
脳は、神経細胞どうしのつながりでできている

コネクトームって、何の配線図なの?

脳の中にある神経細胞どうしのつながりを描いた図よ。神経細胞は、脳をつくっている細胞のことなの。
細胞どうしは、細長い線を伸ばして、その先でほかの神経細胞にたどり着くのよ。

線を伸ばして、つながってるんだね。

たどり着いた先のつなぎ目を、シナプスと呼ぶわ。
配線図のイメージは、駅を細胞、線路をつながりに見立てた鉄道の路線図ね。

ふうん、脳の路線図なんだ。

コネクトームは、この路線図を脳の全体について残らず描こうとするものよ。
ただ本物の路線図と違って、脳のつなぎ目は目で見て描けるような大きさではないの。
コネクトームの「-ome」は「すべて」を表す

名前も、ちょっと変わった響きだよね。

脳科学辞典によると、英語で「つなぐ」を意味するconnectに-omeを付けた造語なの。-omeはギリシア語で「完全、すべて、総体」を意味するわ。
たとえるなら、作品を残らず集めた「全集」のような響きの語尾ね。

じゃあ、すべての配線を描いたものだけがコネクトームなの?

本来の意味は、動物の体にある神経細胞が、すべてどうつながっているかの全体よ。
でも辞典は、脳の一部分だけの配線図を指すこともよくあると書き添えているわ。

神経細胞のつなぎ目は、電子顕微鏡でしか見えない

シナプスは、そんなに小さいの?

形を見分けるには、ナノメートルの細かさで写せる電子顕微鏡が要るの。1ナノメートルは、1ミリメートルの100万分の1の長さよ。

そのうえ、脳をごく薄く切り分けなければならないの。
そこで脳を何枚もの薄い板に切り、1枚も失わずに撮影して、画像を保存するのが最初の仕事よ。

ずいぶん手間がかかりそうだね。

たとえるなら、ハムのかたまりを薄切りにして、1枚ずつ写真に撮るようなものね。ただ脳の場合は、切り口の細部まで写せる細かさが要るの。
哺乳類の脳のように大きなものだと、撮る枚数は巨大になるわ。
写真を1枚ずつたどると、1個の神経細胞の形が組み上がる

写真が撮れたら、次は何をするの?

写真に写った細胞の切り口を、隣の1枚へ、またその隣へとたどるの。こうして1個の神経細胞がどこまで伸び、どこで誰とつながるかを組み立て直すのよ。

たとえるなら、パラパラ漫画の1枚ずつで、同じ人物を見失わないように追う作業ね。ただ実際に追うのは細胞の切り口よ。
脳科学辞典は、たどる線を1か所でも間違えると、まったく別の神経細胞を追うことになると書いているわ。

1か所のミスで別の細胞になるなんて、責任重大だね。

そうなの。この辞典は、2016年の時点では、人の目で画像を見てたどるのが最も確実なやり方だと述べているわ。
そこで、ゲーム感覚で一般の人に手伝ってもらう試みも生まれたの。

同じ文章は、将来は人工知能がこの細かい作業を自動でこなす可能性も高いと見ているわ。
神経細胞が302個の線虫では、配線図をほぼ描き切れた

でも、ほぼ描き切れた例もあるのよ。線虫という小さな生き物では、電子顕微鏡でほぼ完全なコネクトームが描けているの。1986年に、John Whiteらが報告したわ。

線虫は体が小さく、雌雄同体の個体の神経細胞は302個しかないの。つながり方の個体差も小さいので、描くことができたと辞典は説明しているわ。

細胞が少なくて、つながり方の差も小さいなら、描きやすそうだね。

背骨のある動物の脳や神経は大きくて、細胞の数もつながり方もずっと多様なの。辞典は、そのコネクトームを描くことは極めて困難だと書いているわ。

小さな町と大きな都市の違いみたいな感じかな。

たとえるなら、そうね。小さな町の地図は描けても、巨大な都市の地図を描くのはとても大変よ。
ただ実際は、細胞の数だけでなく、つながり方の多様さも関わっているのよ。

線虫とは別の虫、ショウジョウバエでは、成虫1匹の脳全体のつながりが読み取られているわ。電子顕微鏡の画像の中の細胞の形をAIが分け、人の手で直していく方法よ。
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MRIでは、脳の大まかな場所どうしのつながりを描く

コネクトームは、見る細かさによって3つに分けられるの。細かさが変わると、使う道具も、見えるつながりも変わるわ。

道具まで変わるなんて、ぴんとこないな。

たとえるなら、地図アプリで日本全体を見るか、街の1軒1軒まで拡大するかの違いね。ただ実際は、拡大するだけでなく、使う道具そのものが変わるの。

たとえば、ミリメートルの細かさでは、MRIなどの体を傷つけずに写す方法を使うわ。MRIは、体を切らずに中を写す病院の装置よ。

病院で聞くあれなんだね。

マイクロメートルの細かさでは、光で見る顕微鏡を使うの。1マイクロメートルは、1ミリメートルの1,000分の1なの。三つの細かさは、下の表で比べられるわ。
| 見る細かさ | 使う道具 | 見えるつながり |
|---|---|---|
| ミリメートル | MRIなど、体を傷つけずに写す方法 | 脳の大まかな場所どうし |
| マイクロメートル | 光で見る顕微鏡 | 神経の線がどこを通り、どこで終わるか |
| ナノメートル | 電子顕微鏡 | 細胞どうしのつなぎ目(シナプス) |

MRIだと、実際には何が描けるの?

理化学研究所は2020年、サルの頭に合わせたMRIの受信装置を作ったの。生きたままのサルの脳を高い画質で写して、ミリメートルの細かさのコネクトームを描いているわ。

まとめ
- コネクトームは、すべての神経細胞のつながりを描いた配線図
- -omeは「すべて」を表す造語。ただし脳の一部の配線図にもよく使われる
- つなぎ目のシナプスは電子顕微鏡でしか見えないので、脳を薄く切って1枚も失わずに撮る
- 写真の上で細胞を1枚ずつたどる。1か所間違えると別の細胞になる
- 線虫の神経細胞302個の配線図は、1986年にほぼ描かれた。体が小さく、神経細胞が少なく、個体差も小さかった
- MRIは生きた脳の大まかなつながりを、電子顕微鏡は細胞どうしのつながりを描く
コネクトームの「すべて」は、1枚の写真には写りません。薄い断面を積み重ね、切り口を1枚ずつつないで、ようやく1個の細胞の形が分かります。
その作業を302個の神経細胞について積み上げた結果が、線虫のコネクトームです。
この記事の定義と説明は、日本神経科学学会の脳科学辞典「コネクトーム」によります。サルのMRIの研究は、理化学研究所が2020年4月27日に公開した発表によります。



