病院のMRIは、体の中を写す装置です。
量子科学技術研究開発機構(QST)と北海道大学は10月14日、目にさした水をMRIで追った研究を発表しました。人の目にさした水が目の奥から頭の中へ広がる様子を、初めてとらえたといいます。
MRIは体の中の水を写すのに、目にさした水の行き先は、なぜこれまで追えなかったのでしょうか。
MRIは水に含まれる水素を写す

MRIって、体の中の何を写してるの?

水よ。水(H2O)は水素原子2個と酸素原子1個でできていて、ふつうのMRIが写すのは水素のほうなの。

へえ、水の中の水素なんだ。

水素の原子核は、方位磁針のような性質を持つの。MRIの強い磁石のそばでは、その針が向きをそろえるのよ。
そこへ電波を当てると、弱い電波で応えるわ。

たとえるなら、体じゅうに小さな方位磁針が敷きつめてあって、つつくと返事をするようなものね。ただ、本物の動きはもう少し複雑なの。

体の中には水がたくさんあるから、この反応はほぼ全身から返ってくるのよ。
ふつうのMRIは目にさした水を見分けられない

それなら、目にさした水も写るんじゃないの?

写るわ。でも、目にさした水も、体にもとからある水も、同じH2Oなの。どちらも同じように反応するのよ。

だから、反応が返ってきた場所の水がどこから来たのか、MRIは区別できないの。
たとえるなら、水がたっぷりのプールに、コップ1杯の水を注ぐようなものよ。
その水がどこへ広がったかは、見えないわよね。もちろんMRIの中はプールとは違うから、あくまでイメージよ。

目と脳のあいだの水を調べたこれまでの研究も、ほとんどは光る色素など、厳密には水と違う物質を目印にしていたの。

てっきり、目と脳のあいだの水そのものを追った研究は、もうあるんだと思ってた。

そこは、まだなのよ。目と脳を行き来する水そのものの動きを、人の体の中でMRIに写した研究は、これまでなかったの。
MRIで見分けられる目印は酸素17を含む水

じゃあ、どうやって見分けたの?

水の中の酸素に目印をつけたのよ。

酸素の原子核には、陽子が8個あるの。ふつうの酸素は酸素16と呼ばれて、中性子も8個よ。

自然界には、中性子が9個の酸素17もわずかにあるわ。名前の数字は、陽子と中性子を足した数よ。

へえ、たった1個違うだけなんだ。

その1個で、原子核が磁石の性質を持つかどうかが変わるの。酸素16は持たないから、MRIには写らないわ。酸素17は持つから、MRIで写せる性質があるのよ。

酸素17の水なら、さした先を追えそうね。

もう一つの決め手は量なの。酸素17を含む水は自然界にほとんどなくて、酸素16のふつうの水に比べて約0.04%しかないの。

そんなに少ないの?

ええ。だから酸素17の水を目にさしたあとで信号が変わった場所は、その水が届いたところだと見分けられるのよ。
たとえるなら、ほとんど真っ暗な部屋で懐中電灯をつけると、光が当たった場所がすぐ分かるのと似ているわ。本物は光ではないから、そこは違うわ。

さらに酸素17は放射線を出さないから、被ばくのない検査にできるのよ。

研究チームが作った酸素17を写す専用コイル

でもね、ふつうのMRIは酸素17を写すようには作られていないの。そこでQSTと北大の研究チームは、酸素17専用のコイルを自分たちで開発したのよ。

コイルは、体に電波を送って、返ってくる電波を受け取る部品なの。
たとえるなら、テレビ用のアンテナではラジオが聞けないから、ラジオ用のアンテナを作ったようなものね。本物のコイルの仕組みは、もっと複雑よ。
目にさした水の信号は脳と重なる領域まで

実際に撮ってみて、どうなったの?

研究チームは、研究に協力した人の目に酸素17の水をさし続けながら、MRIで撮影したの。すると、酸素17の水があることを示す信号の変化は、目だけにとどまらなかったのよ。

変化は眼窩から頭蓋底へと広がっていたわ。
眼窩は「がんか」と読んで、目の玉が入る骨のくぼみのことよ。頭蓋底は「とうがいてい」と読んで、脳を下から支える骨なの。

目の玉のまわりから、脳の下の骨のほうまで広がったんだ。

最後は脳と重なる領域まで届いていたの。

たとえるなら、家の玄関から廊下を通って、奥の部屋の位置まで足跡が続いているような感じね。実際に見えたのは、画像の上で信号が変わった場所なの。

てっきり、水が脳の中に入ったんだと思った。

そうとは決められないの。MRIの画像の上で、脳と同じ位置に信号の変化が見えたという意味よ。

発表資料は、結果を「脳と一致する領域まで到達」と書いているわ。届いた水の量や、脳のどの部分なのかまでは示していないの。

目と脳を行き来する水は病気とも関わる?

目と脳のあいだの水の動きが追えると、何が大事なの?

そこに、脳の事情があるのよ。体のほかの部分では、リンパ管という管が、いらなくなった物を運び出すのを助けているの。その、いらなくなった物を老廃物と呼ぶわ。
ところが、脳にはふつうのリンパ管がないのよ。

えっ、脳にだけ、その管がないんだ。

だから、脳の中の水の流れが老廃物を運び出しているという説が、研究者の関心を集めているの。
たとえるなら、ごみ収集車が通らない町で、水路の流れでごみを流しているという考え方ね。あくまで説よ。

目から脳へ水などが直接移る通り道も報告されているわ。目と脳の水の行き来は、目の病気や認知症との関わりが指摘されているの。

認知症まで出てくるんだ。

緑内障や認知症などが挙がっているわ。緑内障は、目の中を満たす水の排出や循環が悪くなる病気なの。

研究チームは、二つの応用が期待されるとしているわ。病気がなぜ起きるのかを調べることと、新しい診断の方法を作ることよ。
将来は、目にさして脳へ薬を届ける技術の土台になる可能性もあるというの。

ただ、この成果はまだ発表の段階なの。
QSTと北大の資料によると、成果は10月17日に日本磁気共鳴医学会の大会で報告する予定だったわ。ほかの研究者の審査を受けて載る論文は、資料にはまだ挙がっていないの。
まとめ
- ふつうのMRIは水の水素を写すので、目にさした水と体にもとからある水を見分けられない
- 中性子が1個多い酸素17は、MRIで写せる性質を持つ
- 酸素17の水は自然界にほとんどなく、入れた水の目印になる
- 研究チームは酸素17専用のコイルを作り、人の目にさした水の信号が脳と重なる領域まで届く様子をとらえた
- 学会で報告する段階で、審査を受けた論文はまだ挙がっていない
今回の工夫は、MRIで写す原子核を水素から酸素17へ切り替えたところにあります。水を色で染めたり別の物質に置きかえたりせず、酸素を中性子が1個多い仲間に替えただけなので、目印をつけた水も水のままです。
そのためMRIは、点眼した水そのものの動きを追えました。
この記事は、量子科学技術研究開発機構(QST)と北海道大学が2026年10月14日に出したプレスリリースによります。資料はQSTのプレスページと、北海道大学のPDFです。
