月が「無法地帯」に? ペットの遺灰を送るビジネスまで、規制なき商業化のリスク - CNET Japan

民間企業が遺灰や宣伝用ペイロードを月へ運んでいる。元NASA弁護士のスティーブ・ミルミナ氏は、そうした行為を阻止する規制は存在しないと警告している。

ペットや人の遺灰の一部を、ロケットで月へ送るサービスがあります。2024年1月には、遺灰などを積んだ月着陸機ペレグリンが打ち上げられました。ただしNASAによると、機体は月面へ行けずに地球へ戻り、南太平洋の上空で燃え尽きました。
こうした月への輸送について、元NASA弁護士のミルミナ氏はCNETにこう話しています。「月で起きることを規制する法的権限を持つ政府機関が、われわれにはない」という指摘です。米国の法律について論じる中での発言です。では、月に勝手に物を置いてもよいのでしょうか。止められる人は、いるのでしょうか。

そもそも月は、どの国のものにもできない

宇宙条約は、宇宙の探査と利用の原則を定めた、国どうしの約束です。この条約では、月を含む天体を、どの国も自分のものにできません。自分の国の土地だと言い張っても、使い続けたり居座ったりしても、国のものにはならないという定めです。

たとえるなら、月はみんなで使う公園のようなもので、どこかの国が自分の庭にすることはできません。ただし条約は国どうしの約束で、公園の管理事務所のような組織が月にあるわけではありません。

では、民間の会社が月に物を送るときは、どうなるのでしょうか。宇宙条約は、民間の団体の活動には、関係する国の許可と継続的な監督が要るとしています。継続的な監督とは、認めて終わりにせず、そのあとも続けて目を配ることです。さらに条約は、宇宙空間の有害な汚染を避け、条約に加わるほかの国の利益にもきちんと気を配るよう求めています。

つまり条約の上では、会社が国に認められないまま月で活動してよいことにはなっていません。止める立場にあり、続けて監督する務めも負うのは、その活動に関係する国です。どの国が当たるかを、条約は名指ししていません。米国政府は、新しい民間の宇宙活動について、自国にこの務めがあると報告書に書いています。

月面の灰色の砂の上に置かれた金属のカプセルと、空に浮かぶ地球
米国では、打ち上げの前に連邦航空局が荷物も審査する

では、関係する国は実際に何をしているのでしょうか。ペレグリンは米国から打ち上げられたので、この国の決まりを例にとりましょう。

この国で民間のロケットの打ち上げを受け持つのは、飛行機と同じ役所の連邦航空局(FAA)です。会社がロケットを打ち上げるには、連邦航空局の許可が要ります。積む荷物も審査され、その基準は連邦規則に書かれています。打ち上げが、人々の健康と安全、財産の安全、国の安全保障や外交上の利益、国としての国際的な義務を損なわないか、です。国際的な義務には、宇宙条約を守ることも入ります。このため打ち上げの前に、条約の義務に反しないかという点でも確かめることができます。

ただし、この審査は打ち上げの前に行うものです。月面に置いたあとの活動を続けて見る定めは、この規則にはありません。条約が求めていたのは、継続的な監督でした。では、置いたあとは、だれが見張るのでしょうか。

月面に置いたあとを見張る役は、米国の法律で決まっていない

この点は、政府自身が認めています。政府はこれまでにも、今の仕組みだけでは新しい宇宙の活動を十分に扱えないと、報告書などで書いてきました。はっきり書いたのが、2026年3月の商務省の提案です。宇宙を受け持つ役所はいくつかあります。けれども月面での活動などは、今の法律がそれらの役所に与えた役目の外にある、と書いています。

商務省は、ミッションごとに認める新しい手続きを提案し、同じ年の8月に試行への参加を募りました。ただし参加は任意で、試しに認めてもらっても、それだけで決まりとしての力を持つわけではありません。つまり月面を続けて見張る仕組みは、まだ試しの段階です。

夜の発射台のロケットから月へ向かって光の線がのび、月の手前で消える様子
日本の宇宙活動法は、月面で使う機体の管理にも許可を求める

では、日本ではどうでしょうか。日本の宇宙活動法でも、国内の施設から衛星を載せたロケットを打ち上げるには、内閣総理大臣の許可が要ります。そのうえ、打ち上げたあとの管理にも決まりがあります。

ここで注意したいのは、「人工衛星」という言葉の使い方です。ふだん人工衛星といえば、地球の周りを回るものを思い浮かべます。ところが宇宙活動法は、「地球以外の天体上に配置して使用する人工の物体」も人工衛星に入れています。月などの上に置いて使う機械も、人工衛星として扱うのです。国内の設備からその管理を行うには、内閣総理大臣の許可が要ります。その基準の一つが、有害な汚染を防ぐことです。つまり月面で使い続ける機体なら、置いたあとの管理にも国が関わります。

ただし条文のいう管理は、専用の設備で位置や姿勢、状態をつかみ、制御することです。動かない記念品のような荷物まで対象になるかは、条文からは読み取れません。

打ち上げ月面での活動
米国連邦航空局が審査(荷物も対象)役所の役目の外(2026年 商務省)
日本内閣総理大臣が審査(国内の施設からの打ち上げ)天体上で使う機体の管理も内閣総理大臣が審査
まとめ
  • 宇宙条約により、月はどの国も自分のものにできない
  • 民間の活動は、関係する国が認め、継続的な監督をする決まりになっている
  • 米国では打ち上げの前に、連邦航空局が荷物も審査する
  • 月面に置いたあとの活動は、今の法律が役所に与えた役目の外にあると、商務省が2026年に書いている
  • 日本の宇宙活動法は、天体上で使う機体の管理にも許可を求めている

月に勝手に物を置いてよいわけではなく、止める立場にあるのは関係する国です。ただし条約は、認めたあとも続ける監督を求めています。米国の荷物の審査は打ち上げの前に行うもので、置いたあとの月面を見張る役は、米国の法律で決まっていないのです。月面での活動などを対象にした商務省の手続きは、2026年8月の時点で、任意の試行の段階にあります。

発言はCNET Japan(2026年10月6日掲載)、条約と法律は国連と日米両政府の公開資料によります。