針金を何度も曲げ伸ばしすると、やがて折れてしまいます。
機械の部品も、力を受け続けるうちにひびが入ることがあり、そのひびは表面から始まることが多いものです。そこで表面に小さな硬い玉を勢いよくぶつけ、鍛える加工が使われています。
化粧品会社の日本ロレアルは、毎年原則4人の若い女性科学者に「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を贈っています。対象は、大学院の博士課程で研究している人と、これから進む人です。世界で続く「ロレアル-ユネスコ女性科学賞」の日本版で、日本ユネスコ国内委員会の協力を得て2005年に始まりました。
2026年度の受賞者の1人が、中央大学大学院の梶原美紀さんです。受賞の理由は、この玉(粒子)をレーザーで勢いよく撃ち出して材料の表面を鍛え、長持ちさせる技術をつくったことです。
鉄や銅に粒子をぶつけると本当に強くなるのか、そして速くぶつけると何が変わるのでしょうか。
そもそも金属は、小さな結晶の粒が集まってできている
鉄も銅も、目に見えないほど小さな結晶の粒が、すき間なく集まってできています。たとえるなら、小石をびっしり敷きつめた石畳のようなものです。実際の結晶の粒は形も大きさもばらばらで、石畳ほど整ってはいません。
梶原さんらの論文は、結晶の粒を細かくできれば、金属の強さなどの性質を高められる可能性があると書いています。なぜ細かいほうがよいのか、その理由にはここでは立ち入りません。では、金属の表面を強くするには、どうすればよいのでしょうか。
小さな硬い玉を無数にぶつけると、金属の表面は硬くなる
ショットピーニングという加工では、小さな硬い玉(以下、粒子)を部品の表面に無数にぶつけます。粒子が当たった表面は細かくへこみ、その部分が硬い層に変わります。たとえるなら、鍛冶屋がハンマーで鉄をたたいて鍛えるようなものです。ハンマーと違って玉の一つ一つはごく小さく、そのかわり数えきれないほどの数を当てるのが特徴です。
ショットピーニングはすでに広く使われている技術で、その効果は金属がへこむ速さに左右されます。粒子が速くぶつかるほどへこむのも速くなるので、ぶつかる速さが大事になります。ふつうのショットピーニングでは、速さは最大で秒速300m程度です。
レーザーで撃つと、もっと小さな粒子をもっと速くぶつけられる
レーザーで粒子を撃ち出すときの発射台は、透明な層と黒い層の2枚重ねです。レーザーの光は透明な層を通り抜け、黒い層で受け止められます。光のエネルギーを受けた黒い層は、一瞬で熱い気体のような状態に変わり、急にふくらみます。その勢いで、黒い層の上に載せた粒子が、ぶつける相手に向かって押し出されるのです。このとき、黒い層の一部も溶けて飛び散ります。
こうして、髪の毛の太さよりずっと小さな粒子が秒速800m程度に達し、ふつうのショットピーニングの2倍を超えました。
| 方法 | ぶつかる速さ |
|---|---|
| ふつうのショットピーニング | 最大で秒速300m程度 |
| レーザーで撃ち出す方法(梶原さんら) | 秒速800m程度 |

速くぶつけると、銅の結晶の粒が細かくなった
論文では、純銅にこの方法で粒子をぶつけ、跡の断面を調べています。すると、跡のまわりで結晶の粒が細かくなっていました。比べるために、先が小さな球になった道具をゆっくり押しつけ、同じような形のへこみも作りました。ところが、こちらでは結晶の粒は細かくなりませんでした。
論文は、速く変形させると結晶の粒が細かくなると結論づけています。結晶の粒が細かくなれば性質を高められる可能性があることは、最初に見たとおりです。そのため研究チームは、この方法が新しい表面の加工法になりうると見ています。
速さを確かめるために、ぶつかると光るシートを使った
速さで結果が変わるなら、実際にぶつかった速さを知る必要があり、ふつうは高速度カメラで撮って測ります。しかし、撮れる粒子の大きさや速さには限界があり、この試験法では課題になっていました。
そこで使われたのが、力を受けて少し形が変わっただけでも光る材料です。この材料は、応力発光体と呼ばれます。そして速さを測るときは、ぶつける相手の代わりに、応力発光体を塗ったシートを置きました。粒子が当たった瞬間に、シートが光って知らせます。
ただし、最初に光るのは粒子ではなく、粒子より速く飛ぶ黒い層のかけらです。そこで、粒子を載せずに撃つ回と、載せて撃つ回を用意しました。載せない回では、かけらが当たった光だけが出ます。これに対して載せた回では、そこに粒子が当たった光が加わります。二つの光の量がずれ始めた瞬間が、先頭の粒子が着いた時です。
撃った瞬間からその時までが、粒子の飛んだ時間です。発射台からシートまでの距離を、この時間で割れば(距離÷時間)速さが出ます。この研究で使った粒子は高速度カメラでも撮れたので、両方の測り方で比べたところ、値はよく一致しました。

まとめ
- 部品のひびは表面から始まることが多く、表面に粒子をぶつけて硬くするショットピーニングが使われている
- 梶原美紀さんは、粒子をレーザーで撃ち出す研究で「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を受けた
- レーザーで撃つと、ふつうの加工より小さな粒子を、秒速800m程度の速さでぶつけられる
- 純銅では、速くぶつけた跡で結晶の粒が細かくなり、ゆっくり押しつけた跡ではならなかった
- ぶつかる速さは、当たると光る応力発光体のシートで測った
金属に粒子をぶつけると、表面がへこんで硬くなります。銅の実験では、速くぶつけた跡のまわりで、結晶の粒が細かくなりました。速さが結果を左右するので、撃ち出す仕組みと、光るシートで速さを測る仕組みが合わせて開発されました。梶原さんらがねらうのは、ひびの始まりやすい表面に、速くぶつけて細かな結晶の粒をつくることです。
受賞の内容は日本ロレアルの発表によります。仕組みと数字は、研究チームが2024年に日本材料学会の論文誌「材料」に発表した論文から取りました。
