スマホの電池は、何年か使うと持ちが悪くなります。充電と放電をくり返すうちに、中の材料が傷んでいくからです。
ところが宇宙では、30年以上使われてきた電池があります。人工衛星などに積まれてきたニッケル水素ガス電池です。米国のEnerVenueは9月、この方式の電池を地上向けに作る量産ラインを、中国で動かし始めました。それほど長く使える電池が、なぜ今まで地上で広まらなかったのでしょうか。
量産ラインの事実はEnerVenueが2026年9月24日に出した発表によります。電池のしくみと試験の数値は、2018年に米国科学アカデミー紀要に載った論文から取りました。
水素ガス電池は、電気をためると容器に水素ガスがたまる
この電池の正極はニッケルの化合物で、電解液は水酸化カリウムを溶かした水です。充電すると、負極で水から水素ガスが生まれ、容器の中にたまります。そして放電のときは、その水素を負極で反応させて電気を取り出します。
つまり負極には、水素を出す反応と戻す反応の両方を進める触媒が必要です。なお、充電池でおなじみのニッケル水素電池とは別の方式です。

水素ガス電池が地上で広まらなかったのは、触媒が白金だったから
スタンフォード大学のYi Cui教授らは2018年、この電池の論文を出しました。同氏はEnerVenueの会長で、共同創業者です。
論文によると、宇宙用の水素ガス電池は、触媒に高価な白金を使っていました。そのため性能は高くても、広くは使われなかったのです。そこでチームは、白金をニッケル、モリブデン、コバルトの合金に替えました。
水素を出すときに余分に必要な電圧は、合金が約80ミリボルト、白金が約71ミリボルトで、近い値でした。この合金を使うと、電気をためる反応にかかわる材料だけの費用は、1キロワット時あたり約83ドルと見積もられました。電池全体の価格ではありません。論文が引いた米エネルギー省の目標は、大型の蓄電で100ドルでした。
合金はニッケルの網に直接付け、長い試験でも働きが目立って落ちなかった
論文で比べた白金の触媒は、炭素の粉に載せて電極に塗ったものです。合金のほうは、スポンジ状のニッケルの網に電気めっきで直接付け、炭素の粉も、粉を固める糊も使いません。
| 比べた試験 | 白金の触媒 | 合金の触媒 |
|---|---|---|
| 水素を出し続ける試験 | 800時間で少しずつ低下 | 1,500時間で目立つ低下なし |
| 小さな試験用の電池で充放電をくり返す試験 | 容量が少しずつ低下 | 1,500回で低下はわずか |
水素を出し続ける試験で白金の働きが落ちた理由を、著者は推定しています。おそらく水素の泡で、触媒が電極からはがれたため、という見方です。

「3万回」は量産する水素ガス電池の設計値で、2018年の論文が確かめたのは1,500回
EnerVenueは、量産する水素ガス電池が3万回の充放電に耐える設計で、1日3回使っても30年もつと発表しています。
しかし、3万回を超える実績があるのは、白金を使った宇宙用の水素ガス電池です。論文が合金の電池で確かめたのは、1,500回まででした。
また発表文は、量産する電池を「安い材料で作り直した」と説明しています。ただし発表文に、材料の名前は出てきません。量産する電池が論文の合金を使っているかどうかは、発表文からは分かりません。
量産ラインで作るのと同じ第4世代の水素ガス電池が、中国の常州で最初に使われ始めたのは2025年11月です。それから、まだ1年たっていません。
量産ラインは年に250メガワット時分を作れる規模で始め、2027年には1ギガワット時に増やす計画です。最初の大きな注文は中国北部の油田向けで、最初のコンテナの出荷は12月を予定しています。
まとめ
- ニッケル水素ガス電池は、充電で水素ガスがたまり、放電でその水素を使う
- 宇宙用は触媒が白金で高く、地上では広まらなかった
- 2018年の論文は、白金をニッケル、モリブデン、コバルトの合金に替えた
- 合金はニッケルの網に直接付け、1,500時間の試験でも働きが目立って落ちなかった
- 3万回を超える実績は宇宙用のもので、論文の電池で確かめたのは1,500回
- EnerVenueの3万回は設計値で、発表文に量産する電池の材料の名前はない
論文によると、合金を付ける電気めっきは、大きな規模で作るのに向いた方法です。ニッケルの網のほか、ステンレスの網や炭素繊維の布にも、同じ合金を付けられました。
