富士通、新方式の量子コンピューター試作機を世界初開発 ダイヤモンドで計算精度を向上 - ITmedia NEWS
富士通が、特殊なダイヤモンドを計算の心臓部に使う新方式の量子コンピューターの試作機を世界で初めて開発したと発表した。量子コンピューターにはさまざまな方式があるが、新方式は計算に使う「量子状態」を維持しやすく、大規模化に有利といった長所があるという。
宝石のダイヤモンドは、透明で傷のないものほど高い値がつきます。ところが富士通は2026年9月8日、ダイヤモンドの傷を計算に使う量子コンピューターの試作機を開発したと発表しました。傷は、別の種類の原子を打ち込んで、わざと作ったものです。
宝石なら値打ちを下げる傷が、ここでは計算の主役になります。では、量子コンピューターとは何で、なぜ傷がその部品になるのでしょうか。
そもそも量子ビットとは
パソコンやスマホは、0か1のどちらかを表すビットを、ものすごくたくさん使って計算しています。電気が流れているかいないかの2通りで、数を表すしくみです。
量子コンピューターは、ビットのかわりに量子ビットを使います。量子ビットは、0と1が重なり合った状態をとれるのが特徴です。たとえるなら、机の上でくるくる回っているコインのようなものです。止まるまで、表か裏かは決まっていません。ただし、これは感じをつかむためのたとえです。
そのかわり、量子ビットはとても崩れやすいものです。回るコインが、机のわずかな揺れで倒れてしまうのに似ています。このような外からの乱れを、ノイズと呼びます。だから、量子ビットを何で作り、ノイズからどう守るかが、量子コンピューターづくりの大きな課題です。また、多くの量子コンピューターは、冷凍機でとても低い温度まで冷やして動かします。
ダイヤモンドの傷は、電子の入れ物
ダイヤモンドは、炭素の原子がきれいに並んだ結晶です。富士通はそこにスズを打ち込みました。すると、炭素が並んでいた場所の一部が、スズと、何もない空き部屋に入れ替わります。この空き部屋は空孔といい、できた傷の名前はスズ-空孔センターです。
ただし量子ビットになるのは、傷そのものではありません。傷には電子が閉じ込められていて、その電子のスピンを量子ビットに使います。スピンとは、電子が小さな磁石として持っている向きのことです。たとえば向きが上なら0、下なら1と決めれば、コインのように重なり合った状態も扱えます。
そして入れ物になるダイヤモンドには、量子ビットを崩さずに保ちやすいという特長があります。コインのたとえで言えば、揺れにくい机です。

窒素の傷より、ノイズに強い
ダイヤモンドの傷を使う研究では、これまで窒素と空孔でできた傷を使うのが一般的でした。それに比べて今回の傷は形の釣り合いがよく、外からの乱れを受けにくいのが特長です。崩れやすい量子ビットにとって、ありがたい性質です。
この傷を量子ビットに使い、チップの上に集めた量子コンピューターは、世界で初めてだと富士通は説明しています。
光で読み、光でつなぐ
傷を使うもう一つのよさは、光を通して量子ビットを扱えることです。量子ビットの状態を読むときは、傷から出る光の粒、光子を1個ずつ取り出します。今回の傷が出す光は、従来比で約10倍の明るさだと富士通は説明しています。富士通は、この光子を取り出すための光の通り道と、ごく薄く削ったダイヤモンドを、1枚のチップに組み込みました。
光子のもう一つの役目は、離れた量子ビットどうしをつなぐことです。光子を使えば、別のチップや別の冷凍機に入った量子ビットのあいだでも、状態を受け渡せます。この受け渡しは、今回のスズの傷ではなく、前から使われてきた窒素の傷で確かめられています。デルフト工科大学と富士通の共同研究の成果です。
つまり量子ビットを増やしたいとき、小さな単位を作って光でつなぎ足していけます。富士通はこの作り方をモジュール型と呼び、量子コンピューターを大きくする有力な方法の一つに挙げています。
試作機はどこまで来たか
今回の試作機は、冷凍機の中の約-271.6℃で動くことが確かめられました。ダイヤモンドの方式は、超伝導方式という別の作り方とは、量子ビットの動かし方が違います。そこで、使う人が書いた計算の手順を、ダイヤモンドの方式で動かす命令に置き換えるしくみも作りました。おかげで、使う人が方式の違いを気にせず、富士通の量子コンピューターの窓口から試作機を使えることも確かめました。
次の目標は2027年です。傷を使った小さな単位を、複数つないだ試作機の開発に取り組みます。さらに超伝導方式ともつなぎ、2つの方式を合わせて、より大規模な量子コンピューターを目指すとしています。
まとめ
- 量子ビットは0と1が重なった状態をとれる部品で、ノイズで崩れやすい
- 富士通は、ダイヤモンドの傷に閉じ込めた電子のスピンを量子ビットに使う
- スズの傷は窒素の傷よりノイズを受けにくく、出す光の明るさは従来比で約10倍
- 傷が出す光子で量子ビットを読み、光子で別のチップや冷凍機の量子ビットどうしもつなげる
- 小さな単位を光でつないだ試作機は、2027年が目標
宝石なら値打ちを下げる傷は、ここでは電子を閉じ込めておく入れ物です。乱れに強い入れ物に量子ビットを置き、傷が出す光子で読み出しと接続をまかなうのが、この方式のしくみです。
この記事の内容は、富士通の発表(2026年9月8日)によります。
