「スマホ農場」も身近に? 世界で摘発される「農場」の見えた一端:朝日新聞

 大量のスマートフォンを操り、SNS上で実態のない閲覧数を作り出す「スマホ農場」。日本でもその存在が垣間見えてきたが、海外では大量の電話番号を扱う別の「農場」も摘発されている。こうした「農場」の仕組み…

SNSで見かける閲覧数は、すべて人が見た数とは限りません。大量のスマホをまとめて動かし、人のふりをさせるスマホ農場があるからです。
では、その数は本当に機械で水増しできるのでしょうか。できるとしたら、機械はどうやって人のふりをするのでしょうか。米国のセキュリティー会社HUMAN Securityが、売られていた装置を買って中を調べました。

そもそも、スマホ農場は何のためにあるのか

スマホ農場は、数十台から数千台のスマホを線でつなぎ、1か所からまとめて操る仕組みです。たとえるなら、1人の指揮者が、何百人もの演奏者に同じ合図を出すようなものです。

スマホ農場の使い道には、たとえば次の2つがあります。1つはSNSで実態のない閲覧数を作ること、もう1つは偽の利用者になりすまして人をだます詐欺です。HUMANが追ったのは、後者の詐欺でした。どちらの使い道も、たくさんの人がいるように見せかける点は同じです。

パソコン1台で千個のブラウザを開いても、人らしくは見えない

人のふりをするには、条件が2つあります。1つは数で、もう1つは、実在の人が実際のスマホを使っているように見えることです。SNSなどのサービスは、使っているのが人間かどうかを、ごく簡単な確認でふだんから確かめているからです。

ノートパソコン1台でブラウザ(ネットのページを見るアプリ)を千個開けば、数はそろいます。しかし、実在の人が実際のスマホを使っているようには見えません。HUMANも、それでは2つの条件を両方は満たせないと書いています。たとえるなら、1人が千枚のお面を付け替えて受付に並ぶようなものです。人数はそろっても、どこか同じ人らしさが残ります。ただし、何が見抜かれるのかを、HUMANは細かくは書いていません。

そこで出てくるのが、本物のスマホです。すると、サービスの側からは、本物の機械とOS(スマホを動かす土台のプログラム)と回線からの利用に見えます。そのため、触れたのが人の指かプログラムかを見分けるのは難しいのです。

それでも、指の動かし方には違いが出ることがあります。HUMANによれば、一直線に指を滑らせるような機械らしい動きは見つかりやすいといいます。見つけるのは、不正な利用を自動で探す見張りの仕組みで、簡単なものでも気づけるそうです。

金属の棚に、画面のないスマホの基板が20枚ほど立てて並び、背面から細いケーブルが束になって出ている様子
スマホ農場の中身は、画面のない基板を差し込み口の箱に挿したものだった

HUMANが買ったのは、20台を収めるスマホ農場の装置です。箱の作りは、パソコンのUSBの差し込み口を増やす機器とほぼ同じでした。電源と、操作役のコンピューターにつなぐUSBと、ネット回線の差し込み口があるだけです。

差し込まれていたのは、画面のないスマホの基板でした。基板は、スマホの部品を載せた板で、計算や通信を受け持つ部分です。人が見るための表示部分がなくても、アプリは動きます。

使われていたのは、古く安い機種の基板でした。中古や故障品、工場の不良品などから集められます。1台が安いので、台数を増やすのも取り替えるのも簡単です。つまり、スマホ農場の1台1台は、使い捨ての道具として扱えます。

ソフトが画面を読んで指の代わりに動かし、AIが苦手な所を補う

基板を動かすのは、自動化のソフトです。表示する部品はなくても、基板の中では、どこにどのボタンがあるかという画面の中身が作られています。また、HUMANが調べた装置には、その中身をUSB経由でパソコンに映す補助のソフトも入っていました。自動化のソフトはAndroidに備わった機能を使い、そのボタンや文字の欄を読み取ります。そのうえで、タップやスワイプといった指の動きを出します。人が目で見て指で触るのと、同じ順番の動き方です。

ただし、この自動化の道具はアプリは得意でも、ブラウザを扱うのは苦手でした。ブラウザを確実に動かすには、自分でプログラムを書く本格的な技術が要りました。そこが、知識の少ない人にとっての壁でした。その壁を下げたのがAIです。やりたいことをふつうの言葉で頼むと、AIが動かすためのプログラムを書く仕組みです。その結果、以前より少ない知識でスマホ農場を動かせるようになったと、HUMANは見ています。

横長の暗いモニターに、小さなスマホの画面がずらりと並んで映し出されている様子
ラトビアのSIM農場は、偽アカウントに要る電話番号を貸していた

SNSのアカウントを作るときは、電話番号で本人確認をすることがよくあります。その番号を大量に用意して貸す仕組みの1つが、SIM農場です。SIM農場は、番号の入ったSIMカードを何十枚も収める箱を、大量に並べた拠点です。

2025年10月、ラトビアで大きなSIM農場が摘発されました。運営者は、世界の多くの国の電話番号を、犯罪に使う人へ貸していました。そのため、借りた人は、自分の本当の番号を使わずに偽アカウントを作れます。欧州警察機構(ユーロポール)によると、作られたアカウントは4,900万件を超えます。スマホ農場が人の動きをまねるのに対し、SIM農場は人の身元の代わりになる番号を用意する場所です。

見張る側は、端末が知らせる画面の大きさの食い違いも手がかりにする

では、スマホ農場の端末は見分けられないのでしょうか。HUMANは、手がかりを控えめにしか書いていません。確かな手がかりの中にも作る側がまねできるものがあり、詳しく書くとまねされてしまうからだと断っています。そのうえで挙げた例の1つは、大きさの情報です。

基板だけの端末は、市販のスマホのふりをして動きます。端末は、アプリやサービスに「自分の画面はこの大きさです」と知らせます。ところが、知らせる寸法が、まねている市販機と食い違う場合があるのです。実際のスマホの部品を使っていても、組み方の違いが外から見える形で残るわけです。

まとめ
  • スマホ農場は、大量のスマホをまとめて動かし、閲覧数を水増ししたり、人のふりをしたりする
  • 人のふりには数と本物らしさの両方が要り、パソコン1台のブラウザでは両立しない
  • HUMANが調べた装置は、画面のない古い基板20台を、差し込み口の箱に挿したものだった
  • ソフトがボタンや文字欄を読み取って指の代わりに動かし、苦手なブラウザはAIが書くプログラムで補う
  • ラトビアで摘発されたSIM農場は電話番号を貸し、4,900万件を超える偽アカウント作りに使われた

SNSの閲覧数は、実物のスマホから来た数であっても、人が見た数とは言い切れません。見分ける手がかりは、端末が本物かどうかではなく、知らせる中身や動き方の食い違いにありました。

スマホ農場の装置の作りはHUMAN Securityの報告(2026年7月28日)によります。SIM農場の摘発は欧州警察機構(ユーロポール)の発表(2025年10月17日)から取りました。