南極の氷の下、深さ1,450〜2,450mに、5,000個を超える光のセンサーが埋まっています。
この観測所を率いてきたハルツェン(Francis Halzen)氏が、2026年のノーベル物理学賞に決まりました。所属は米ウィスコンシン大学マディソン校です。観測所の名前はアイスキューブで、日本からは千葉大学が唯一参加しています。ただ、センサーには上空から来る粒子が1日に1億個を超えて記録されます。その記録の中から、年に約100個と見込まれる宇宙のニュートリノを、どう取り出すのでしょうか。
受賞の内容と数字は、スウェーデン王立科学アカデミーの発表と、同アカデミーが公表した一般向け解説と科学的背景によります。千葉大学の参加は、同大学の発表から取りました。
ニュートリノは電気を帯びず、遠くの発生源からまっすぐ届く
アカデミーの専門家向けの解説(科学的背景)によると、ニュートリノは電気を帯びず、物質ともほとんど反応しません。そのため、発生源の中や途中で吸収されたり、磁場で曲げられたりせずに届きます。一方、宇宙線の陽子は途中の磁場で曲がるので、来た方向から出どころをたどりにくいのです。
ただ、反応しにくい粒子は、検出器でも捉えにくいものです。そのうえ宇宙から来る数は、エネルギーが高いほど減っていきます。このため解説は、実用的な数を捉えるには1立方キロメートル規模の検出器が要るとしています。アイスキューブが捉えるのは、氷の中で反応したときに出る光です。

上から降る粒子は、地平線より下から来た飛跡だけを選んで減らす
背景の1つめは、大気でできて氷の中まで届くミューオンという粒子です。科学的背景によると、その数は真上から来るものが最も多く、地平線に近い向きほど減ります。そこで典型的な解析では、地平線より下から来た飛跡だけを選び、毎秒約3,000回の記録を、毎秒数回の水準まで下げます。
地平線より下から来るものは、地球を通り抜けてきたものです。一般向け解説によると、北半球の大気でできたニュートリノは、地球を通り抜けて1日に数百個届きます。
大気でできたニュートリノとは、数の減り方の違いで見分ける
背景の2つめは、大気でできたニュートリノです。0.1テラ電子ボルト(TeV)以上のニュートリノは年に約10万個記録され、その大半が大気由来です。そこで、数が減る速さの違いを使います。
科学的背景によると、大気由来はエネルギーの約3.7乗に反比例して急に減ります。対して宇宙由来は約2.5乗で、減り方がゆるやかです。そのため数十TeVを超えると、宇宙由来が背景の上に浮かび上がります。
| 種類 | 数 |
|---|---|
| 上空から届く粒子 | 1日1億個超 |
| 大気でできたニュートリノ(0.1TeV以上) | 年約10万個 |
| 宇宙由来と見込まれるニュートリノ | 年約100個 |

宇宙由来の最初の2個は、別のニュートリノを探すデータから偶然見つかった
2013年には、2年分のデータの中から2個が報告されました。2個のエネルギーは、1.04ペタ電子ボルト(PeV)と1.14PeVです。天体から来た高エネルギーのニュートリノの、最初の証拠です。この2個は、もっと高い領域のニュートリノを探すなかで、偶然見つかりました。
使ったのは、向きを問わず、検出器の外側を見張り役にして、内側で反応が始まった事象だけを選んだデータです。外から入ってくる大気のミューオンは、ここでも外せます。この2個が手がかりになり、同じデータから宇宙由来の28個の発見につながりました。
アイスキューブは、14か国58機関の約450人による共同研究です。ハルツェン氏は、その始まりから研究代表者として計画を率いてきました。
まとめ
- 2026年のノーベル物理学賞は、アイスキューブを率いたハルツェン氏に決まった
- ニュートリノは電気を帯びず、磁場で曲がらずに宇宙の遠くから届く
- 大気のミューオンは、地平線より下から来た飛跡を選ぶと毎秒約3,000回から数回の水準に減る
- 大気でできたニュートリノは約3.7乗、宇宙由来は約2.5乗で減り、数十TeVを超えると宇宙由来が浮かぶ
- 2013年に報告された最初の2個は、別のニュートリノを探すために、内側で始まった事象を選んだデータの中にあった
宇宙のニュートリノは、背景をゼロにして1個ずつ選び出したのではありません。来る向きや、検出器の内側で始まったかどうかで上からの粒子を外し、数の減り方の違いで大気由来と分けました。1個ごとに宇宙由来と言い切れなくても、選んだ事象全体のエネルギーの分布は、大気由来だけでは説明できません。そこに、年に約100個と見込まれる宇宙からの分が含まれています。

