NU Research Information - Nagoya University
In a groundbreaking discovery, researchers from Nagoya University in Japan and the Slovak Academy of Sciences have unvei...
2025年2月、名古屋大学とスロバキア科学アカデミーの研究チームが「マクスウェルの悪魔」に関する革新的な研究成果を発表しました。この研究は、量子論と熱力学の関係を解明し、新たな技術応用の可能性を示す重要な発見です。「悪魔エンジン」と呼ばれる数理モデルを開発し、エネルギーを効率的に利用する方法を探りました。この成果は、量子コンピュータや省エネ技術の進化を加速させる可能性があります。
マクスウェルの悪魔とは?
「マクスウェルの悪魔」は、1867年に物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルが考案した思考実験です。この仮説では、エネルギーを消費せずに熱の移動を制御できる存在を想定し、熱力学第二法則(エントロピー増大の法則)に挑戦します。
例えば、箱の中の分子を「悪魔」と呼ばれる存在が選別し、速い分子だけを片方の部屋に集めることで温度差を生み出し、エネルギーを取り出す仕組みです。しかし、この選別や記録にはエネルギーが必要なため、熱力学第二法則を破ることはできないと考えられています。
悪魔エンジンの仕組みを図で見てみよう!
名古屋大学の研究で使われた「悪魔エンジン」はどのような仕組みになっているのでしょうか? 図を見て考えてみましょう。
図の5つのポイント

図には、悪魔エンジンを理解するための重要な要素が5つ描かれています。
- 系A (System A): エネルギーや情報の元となる場所。例えば、ガスが入った箱や量子状態などがあります。
- 悪魔の内部状態M (Demon's Internal State M): 悪魔が情報を集めるための「脳」や「記憶装置」にあたります。虫眼鏡を持っている姿で描かれ、系Aを観察している様子を表しています。
- レジスタK (Register K): 悪魔が集めた測定結果を記録する場所。吹き出しの中の「K」は、悪魔が考えたことをメモしているイメージです。
- 環境B1 (Environment B1): エネルギーを取り出すために使う、一定温度の環境。炎が描かれており、熱エネルギーを利用する様子を示しています。
- 環境B2 (Environment B2): 悪魔の記憶を消去するために使う、一定温度の環境。こちらも炎が描かれており、記憶をリセットするために熱エネルギーを使う様子を示しています。
図を使った例え
「悪魔エンジン」を簡単な例で考えてみましょう。たとえば、学校の先生がテストの採点をしている場面を想像してください。
- 系A(System A)= テスト用紙の山(生徒たちが解いたテストが置かれている場所)
- 悪魔M(Demon M)= 先生(先生が赤ペンを持ち、どの答案を採点するか決めています)
- レジスタK(Register K)= 先生のメモ帳(先生が「この問題は間違っている」「ここは正しい」とメモを取る場所)
- 環境B1(Environment B1)= 採点結果を集計するコンピュータ(先生が採点した結果を成績表に反映する作業)
- 環境B2(Environment B2)= メモをシュレッダーにかける作業(採点が終わった後、先生のメモを処分して次の作業に備える)
このように、先生(悪魔M)が情報を集め(測定)、点数を記録し(エネルギーの取り出し)、最後にメモを消す(記憶消去)ことで、全体の流れが成立します。このプロセスが「悪魔エンジン」の仕組みとよく似ているのです。
名古屋大学の研究成果
名古屋大学の研究チームは、「マクスウェルの悪魔」を応用した「悪魔エンジン」の数理モデルを開発しました。研究の主なポイントは次の3つです。
- 測定:システム内の分子の状態を観測する。
- エネルギーの取り出し:観測結果を利用してエネルギーを抽出する。
- 記録の消去:観測データを消去し、熱力学的な影響を分析する。
このプロセスを詳細に解析した結果、一部の条件下では得られるエネルギーが消費エネルギーを上回る可能性があることが分かりました。しかし、全体として熱力学第二法則は維持されるため、法則が破られるわけではないことも確認されました。
量子技術への応用
この研究は、次のような最先端技術に応用される可能性があります。
省エネ型コンピュータ
情報処理とエネルギー消費の関係が明らかになったことで、データセンターやスーパーコンピュータの省エネ化が期待されます。例えば、クラウドサービスの効率化やAIによるエネルギー管理の最適化が進めば、大規模なデータ処理の消費電力を削減できる可能性があります。
量子コンピュータの効率化
量子コンピュータは量子ビット(Qubit)の状態を制御するのに多くのエネルギーを必要とします。「悪魔エンジン」の理論を活用すれば、より低エネルギーで計算を行う方法が見つかるかもしれません。
ナノテクノロジーと医療
ナノサイズの分子制御技術にも応用が期待されています。例えば、ナノロボットを利用したターゲット治療や、ドラッグデリバリーシステムによる精密な薬物投与技術が発展すれば、医療機器やバイオテクノロジーの分野で革新が起こるでしょう。

まとめ
- 「マクスウェルの悪魔」 は、熱力学第二法則に挑戦する思考実験。
- 名古屋大学の研究 では、量子技術を活用した「悪魔エンジン」のモデルが開発された。
- この研究の応用分野 には、省エネ型コンピュータ、量子コンピュータ、ナノテクノロジーが含まれる。
- 量子論と熱力学の関係 は、矛盾せずに共存できることが確認された。
今回の研究は、未来の技術開発に向けた重要なステップです。情報とエネルギーの関係を深く理解することで、より効率的なコンピュータや新しいエネルギー技術の開発が進むでしょう。この技術は、私たちの生活や社会にどのような影響を与えるでしょうか?
例えば、より省エネなデバイスや新しい情報処理技術の登場が予想されます。あなたなら、どんな場面でこの技術を活かしたいですか?ぜひ、自分の考えを深め、周りの人とも議論してみてください