2026年2月、イタリアの研究チームが、光の粒子(フォトン)を使ってAIの記憶モデルを物理的に再現することに成功しました。
「光がニューロン(神経細胞)のように働く」というこの発見は、世界的な科学誌『Physical Review Letters』に掲載され、大きな注目を集めています。
AIはこれまで大量の電力を必要としてきましたが、フォトニクス(光を使ったコンピューティング技術)が、その課題を根本から変えるかもしれません。あなたは、「光でできたAI」の世界をどう思いますか?
AIの記憶を「光」で再現した
今回の研究を行ったのは、イタリア国立研究評議会(CNR-Nanotec)、イタリア技術研究所(IIT)、サレント大学、サピエンツァ大学ローマ校の共同チームです。
研究チームは、光子回路(フォトンを通す微細な光の道)に複数の同一フォトンを流し、干渉(光が重なり合う量子的な現象)を制御しました。 その結果、出てくる光のパターンの統計が、AIの「ホップフィールド・ネットワーク」と呼ばれる記憶モデルの数式とぴったり一致することを確認しました。
ホップフィールド・ネットワークとは、脳の連想記憶(あいまいな情報から正しい記憶を引き出す仕組み)をまねたAIモデルのことです。 2024年ノーベル物理学賞を受賞したジョン・ホップフィールド氏が考案しました。
「エネルギーの谷」で記憶する仕組み
ホップフィールド・ネットワークは、「エネルギーの谷」という考え方で動いています。
たとえば、「少し壊れた画像」を入力しても、ネットワークが自動的に「一番近い正しいパターン」を探し出します。ボールが坂を転がり、谷底に落ち着くイメージです。
ただし、記憶させるパターンを増やしすぎると、「どの谷にも落ち着けなくなる」状態になります。これを「スピンガラス相(記憶がブラックアウトする状態)」と呼びます。 今回の光回路実験でも、記憶量が少ない段階では正確に取り出せる一方、多くなるとこのブラックアウト状態が現れることが確認されました。
| 状態 | フォトン回路の動き |
|---|---|
| 記憶量が少ない | パターンを正しく取り出せる |
| 記憶量が多い | 出力が乱れやすく、取り出しにくい |
なぜ今回の再現が可能になったのか
この発見には、3つの背景がありました。
- 高精度なフォトニクス実験技術:同一フォトンを精密に制御する光回路の技術が成熟していた
- スピンガラス理論の専門知識:統計物理学の視点から、光の数式とAIの数式の「一致」に気づけた
- 量子×AIをつなぐ研究トレンド:「量子デバイスでAI処理を行う」という世界的な研究の流れが後押しした
CNR-Nanotecのフランチェスコ・イルミナーティ所長は「光は、自然や人工システムを支配する複雑な現象を探る小型実験室になり得る」と述べています。

社会への影響:AIの電力問題を解決できるか
現在、世界のデータセンターの消費電力は2030年ごろには現在の2倍以上に達するという予測があります。 生成AIの普及が、電力需要の増加を加速させています。
フォトニクスを使ったAI処理には、次のようなメリットが期待されています。
- 電子ではなく光を使うため、熱損失が大幅に小さい
- 光の量子干渉が「自動的に計算」するため、消費電力を大幅に削減できる可能性がある
- パターン補完やエラー訂正など、AIが苦手な「あいまい処理」に特化したチップの実現につながる
「このような装置は、現在のデータセンターと比べてはるかに低い消費電力で高い性能を発揮できる可能性がある」と、CNR-Nanotecのルカ・レウッツィ研究ディレクターは語っています。
まとめ
- 光の粒子(フォトン)が、AIの記憶モデル「ホップフィールド・ネットワーク」と同じ振る舞いをすることが実験で確認された
- 光が「エネルギーの谷」に落ち着くように情報を処理する仕組みは、脳の連想記憶と非常に似ている
- 記憶量が増えすぎると「スピンガラス相(記憶ブラックアウト)」に移行するという、脳と共通の限界も再現された
- フォトニクスAIは、急増するデータセンターの電力消費問題を解決する技術として注目されている
今回の発見は、「光の世界」と「AIの世界」の数式が、実は同じ形をしていたという驚きの気づきから生まれました。電気ではなく光でAIを動かせれば、地球全体のエネルギー問題にも大きく貢献できるかもしれません。
フォトニクス、量子コンピューティング、AIの融合は、これからの理工学・情報技術の最前線です。技術が進化していく中で、「省エネなAI」と「高性能なAI」を同時に実現することは可能なのでしょうか?そして、その技術を作り使いこなすのは、今まさに学んでいる皆さん自身かもしれません。