Low temperature and rapid photothermal oxidation of liquid gallium for circular hydrogen production | Nature Communications
Photothermal reactions between liquid gallium and water or seawater enable hydrogen production under light exposure. The authors show that the metal can be regenerated electrochemically, supporting a reusable and sustainable cycle for hydrogen.
オーストラリアのシドニー大学の研究チームは、太陽光と液体ガリウム(金属)を使い、海水からクリーン水素を取り出す手法を発表しました。研究成果は科学誌『Nature Communications』で報告されています。
水素は、燃料電池車(FCV)や産業用途で使われるエネルギー源です。ただし、水素の価値は「使うときにきれい」だけでは決まりません。水素をどう作るかが、環境負荷やコストを左右します。
液体ガリウムを使うクリーン水素技術の仕組み、何に役立つのか、FCVとの関係を考えてみましょう。
クリーン水素とグリーン水素
水素は、利用時に二酸化炭素(CO₂)を排出しません。一方で、水素を作る工程でCO₂が出る場合があります。
- グレー水素:化石燃料から作り、製造時にCO₂が出る
- グリーン水素:再生可能エネルギーなどを使い、製造時のCO₂を抑える
液体ガリウムの研究は、太陽光を主要なエネルギー源として使い、クリーン水素の選択肢を増やす狙いがあります。
液体ガリウムと太陽光で水素が生まれる仕組み
研究の中核は、低い温度で液体になるガリウムです。手順は次のように説明されています。
- 液体ガリウムの微粒子を、海水や淡水の中に分散させます。
- 太陽光(または人工光)を当てて、粒子を加熱します。
- ガリウム表面で反応が起き、水から水素が生成します。
- 反応でできた生成物は、電気化学的な処理でガリウムに戻し、再利用できる設計です。
研究チームは、初期段階の実験として、太陽光から水素への変換効率が最大12.9%に達したと述べています。
この技術は何の役に立つのか
水素製造には複数の方法があります。その中で、液体ガリウムのアプローチが注目される理由は、次の3点に整理できます。
1. 真水に依存しにくい
水素製造の方法によっては、不純物を取り除いた水(純水)が必要になります。今回の研究は、海水や淡水を対象にしている点が特徴です。水資源の制約がある地域でも、水素を作る設計を検討しやすくなります。
2. 太陽光を主要エネルギー源にできる
水の電気分解は電力が大きな入力になります。液体ガリウムの手法は、光による加熱を利用して反応を進める方向性を示しました。エネルギー源を再生可能エネルギー(ここでは太陽光)に寄せるほど、製造段階のCO₂を抑えやすくなります。
3. 設備設計の選択肢が広がる
大規模な電解装置を前提にしない水素製造の研究が進むと、設置場所や設備構成の選択肢が増えます。現時点で商用設備の条件が確定しているわけではありませんが、「水素の作り方を増やす」こと自体が供給網の設計自由度を高めます。
燃料電池車(FCV)とクリーン水素の関係
燃料電池車(FCV)は、水素と酸素の反応で電気を作り、その電気でモーターを回して走ります。走行中の排出は水です。
ただし、FCVの環境負荷は「水素がどう作られたか」にも影響されます。クリーン水素の供給が増えるほど、FCVを含む水素利用の全体像でCO₂を抑えやすくなります。
「海で作って、街で使う」供給イメージ
液体ガリウムの技術が実用化へ進む場合、一般的な水素サプライチェーン(供給網)は次の流れで説明できます。
- 製造:海沿いで、海水と太陽光を使って水素を作る
- 輸送:タンクローリーやパイプラインで水素を運ぶ
- 供給:水素ステーションでFCVやバス、トラックに充填する
交通分野では、長距離や大型車両の脱炭素化(CO₂排出を減らすこと)が課題です。水素の供給方法が多様化すると、用途に合わせた導入計画を立てやすくなります。

世界で加速する「水素競争」
水素を社会で使うには、「作る技術」だけでは足りません。水素を運び、ためて、届ける供給網(サプライチェーン)が必要です。各国・企業は、水素の供給網づくりと実証に取り組んでいます。日本でも、FCVの技術開発や水素供給の検討が続いています。
競争の中心は「供給網の設計」
水素の供給網は、次の要素が組み合わさって動きます。
- 製造:再生可能エネルギーや原料の確保が焦点になります。
- 変換・貯蔵:圧縮、液化、別の形への変換が論点になります。
- 輸送:陸上・海上の輸送手段と距離がコストに影響します。
- 供給:水素ステーションなど、末端インフラが要点になります。
供給網のどこを強くするかで、コストや導入スピードが変わります。水素競争は、設備投資と運用の設計力も問われる分野です。
新技術は「供給源の多様化」につながる
液体ガリウムの研究は、海水と太陽光を前提にした水素製造の可能性を示しました。水素の作り方が増えるほど、供給源(どこで作るか)の選択肢が広がります。供給源の選択肢が増えると、地域条件に合う供給網を組みやすくなります。
まとめ
- シドニー大学、液体ガリウムと太陽光で海水からクリーン水素を生成
- 生成物を電気化学的に還元してガリウムを再利用し、循環型プロセスを提示
- 実験で太陽光から水素への変換効率最大12.9%を報告
- 供給源の多様化が進み、FCV・産業・発電の水素利用設計が柔軟化
水素の議論は「FCVは良いか悪いか」で止まりがちです。しかし、重要なのは「水素をどう作り、どう運ぶか」という供給の設計です。液体ガリウムの研究は、太陽光と海水という条件でクリーン水素を作る可能性を示しました。
読者のみなさんは、クリーン水素が増えることで、発電・工場・交通のどこが最初に変わると思いますか。自分の住む地域の再エネ(太陽光、風力)や水素ステーションの情報を調べると、技術と社会のつながりを具体的に考えられます。