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【BRAIN TECH】01 脳内に「Fitbit」を埋め込む未来:イーロン・マスクのNeuralinkが示した3つの衝撃的事実
Elon Musk’s neuroscience startup unveils pig with computer chip in its brain - National | Globalnews.ca
Musk described Neuralink's sensor, which is roughly eight millimetres in diameter, or smaller than a fingertip, as "a Fitbit in your skull with tiny wires."
私たちが日常的に手首に巻いているFitbitやApple Watch。これらのウェアラブルデバイスが、もし「頭蓋骨の中」に収まるとしたら、あなたはどう感じるでしょうか?
それは「ガジェットの進化」という言葉では片付きません。生身のニューロンと無機質なシリコン・チップが人類史的な転換点となるかもしれません。
2020年8月、Neuralinkが公開した「実機デモ」
2020年8月、イーロン・マスク氏率いる脳科学スタートアップ「Neuralink(ニューラリンク)」は、世界を震撼させるデモンストレーションを行いました。サンフランシスコに拠点を置き、当時1億5800万ドル(うち1億ドルはマスク氏自身の出資)もの資金を投じていた同社が披露したのは、脳とコンピュータを直接つなぐインターフェース(BCI)の「実機」でした。
この記事では、最先端テクノロジーが私たちの「人間性」をどう定義し直そうとしているのか、当日示された3つの衝撃的な事実から読み解いていきます。
衝撃的な事実①「サイポーク(Cypork)」
デモンストレーションの主役は、マスク氏が「3匹の子ブタ」と呼んだ動物たちでした。特に注目を集めたのは、2ヶ月前から脳内にチップを埋め込まれたブタです。このデモで最も重要だったのは、チップを装着したブタが「健康で幸せであり、普通のブタと見分けがつかない」状態であったことです。ブタが鼻で周囲を探索するたびに、リアルタイムで神経活動がトラッキングされ、画面には激しいスパイク(反応)が描かれました。
視聴者からは、サイボーグ(Cyborg)とポーク(Pork)を掛け合わせた「Cypork(サイポーク)」という造語まで飛び出し、生物と機械の融合がすでに現実のものであることを印象づけました。
しかし、真に驚くべきは単なるトラッキングを超えた「予測」の精度にあります。Neuralinkは、チップから得られるデータを用い、トレッドミルの上を走るブタの脚の動きを極めて高い精度で予測することに成功しました。これは、脳内の「運動意図」をデジタルデータとして解釈できるレベルに達していることを意味します。
衝撃的な事実②コインサイズの「頭蓋骨内のFitbit」
Neuralinkが開発したデバイスは、これまでの脳インプラントのイメージを覆すほど小型で洗練されています。直径約8ミリメートルという指先よりも小さなコイン型のセンサーには、髪の毛よりも細い「数千」もの電極(スレッド)が接続されています。マスク氏はこのデバイスを、極めて挑発的かつ平易な言葉でこう表現しました。
「これは、小さなワイヤーを備えた、頭蓋骨の中のFitbitのようなものです」
見えないインプラントと、ロボット手術という前提
このデバイスの革新性は、その圧倒的な「透明性」にあります。従来の重厚な医療用デバイスとは異なり、埋め込まれたチップは頭蓋骨と面一(フラッシュ)になり、髪の下に完全に隠れてしまいます。
さらに、この高度なデバイスを脳に埋め込むのは、人間ではなく専用の精密ロボットです。局所麻酔下で行われるこのプロセスは、将来的には手術費用を含めて数千ドル程度までコストを抑えることが目標とされています。高密度な数千の電極、ワイヤレス通信、そして自動化されたロボット手術。これらが組み合わさることで、脳インプラントは特別な手術から「普及可能なアップグレード」へと変貌しようとしています。

衝撃的な事実③医療の先にある「人類とAIの融合」
Neuralinkのロードマップは、切実な「治療」から壮大な「共生」へと続いています。短期的には、脊髄損傷による麻痺や対麻痺(下半身不随)、さらにはアルツハイマー病、うつ病、不眠症といった、現代医学が完全には克服できていない神経疾患の解決を目指しています。同社の主任外科医マシュー・マクドゥーガル博士は、最初の臨床試験を、麻痺患者を対象に行う方針を明らかにしました。
「治療」だけでは終わらない最終目標
しかし、マスク氏がこのプロジェクトに心血を注ぐ真の理由は、さらに深いところにあります。彼は、急速に進化する人工知能(AI)が人類の知性を凌駕し、実存的な脅威となる未来を危惧しています。Neuralinkの最終的な野望は、人間がAIと神経レベルで融合することで、文明としての人類の未来を確保することにあります。これは、医療という枠組みを超えた「人類のOSのアップデート」に他なりません。
データ品質・解釈・長期使用の課題
マスク氏の描く未来は刺激的ですが、専門家たちの視点は冷静です。ワシントン大学のエイミー・オズボーン助教授は、計測データの品質や、複雑な脳信号を解釈するための機械学習アルゴリズムの開発、そして長期間の使用に伴う組織の瘢痕化(はんこんか)といった課題を指摘しています。
既存技術との比較と、Neuralinkの「強み」
また、脳への電気刺激技術自体は新しいものではありません。医療機器大手のMedtronic(メドトロニック)社は、数十年前からパーキンソン病治療などのために脳インプラントを実用化しています。過去の臨床試験では、人間が脳内の信号だけでロボットアームやコンピュータのカーソルを操作することにも成功しています。
Neuralinkの真の優位性は、その「密度」と「使いやすさ」にあります。Kernel、Paradromics、NeuroPaceといった競合スタートアップが材料工学やワイヤレス技術の進歩を競う中で、Neuralinkは数千の電極をワイヤレスで繋ぎ、ロボットで迅速に埋め込むという「パッケージ化」において、他を一歩リードしようとしているのです。
私たちは何を選ぶのか
デモンストレーションの終盤、マスク氏は「私は今すでにNeuralinkを埋め込んでいるかもしれないが、君たちには分からないだろうね」というジョークを飛ばしました。外見からは判別できないそのチップは、もはやSF映画の小道具ではなく、約100名の精鋭チームが取り組む現実のプロダクトです。
かつてテスラが自動車を「走るコンピュータ」に変え、スペースXが宇宙を身近なものにしたように、Neuralinkは私たちの脳を「情報の入出力インターフェース」として再定義しようとしています。
このテクノロジーの波を前に、私たちは自らに問い直さなければなりません。
もし、失われた記憶や身体機能を取り戻せるなら、あなたはそのチップを脳に受け入れますか? そして、AIが支配する未来において「人間」であり続けるために、あなたは自分の脳をアップグレードする準備ができていますか?
記事協力:

INFINITE MIND(株式会社インフィニットマインド)は、「Brain & Mind Wellness(脳と心のウェルネス)」を掲げ、脳科学に基づく教材開発や教育サービス、メディア運営を行う企業です。
公式メディア「BMW Magazine」では、脳やメンタルの健康が気になり始めた人に向けて、脳(アタマ)・身体(カラダ)・心(マインド)のコンディションを整える方法を、『鍛える』『習慣化』などのシリーズで発信しています。
