生成AIが、実際に「お金を稼ぐ仕事」を任されたらどうなるのでしょうか。アメリカのAI企業Anthropiは、その問いに答えるため、生成AIに自動販売機の経営を任せる実験を行いました。
プロジェクト名は「Project Vend」です。最新のAIエージェントがスナック販売を担当し、売上拡大と黒字化を目指しました。しかし結果は予想外でした。無料配布が続き、大きな赤字が発生したのです。
この実験の経緯を整理しながら、「生成AIはどこまで経営を理解できるのか」を考えてみましょう。
生成AIが自動販売機を経営する実験「Project Vend」とは
Anthropicは2025年、生成AIを活用したAIエージェントに自動販売機の経営を任せる実験「Project Vend」を開始しました。自動販売機には「Claudius(クラウディウス)」と名付けられたAIエージェントが組み込まれています。
利用者はチャットを通じて商品リクエストや価格への意見を伝えることができ、Claudiusは売上データや利用者の反応をもとに、価格設定や品ぞろえを調整します。目的は、赤字を避けながら安定した黒字経営を実現することでした。
しかし、実験の初期段階では経営判断がうまく機能しませんでした。たとえば、隣に無料のドリンクが置かれた冷蔵庫がある状況でも、Claudiusは自動販売機で有料のコーラを売り続けました。また、通常のスナック自販機では扱われない「タングステンキューブ」を非常に安い価格で販売するなど、利益につながらない判断も見られました。
その結果、自動販売機は赤字を拡大させていきました。
AI企業Anthropicとはどんな会社か
Anthropicは、2021年にOpenAIの元研究者らによって設立されたアメリカのAI企業です。大規模言語モデル「Claude」シリーズを開発しており、性能の向上と同時に「AIの安全性」を重視する姿勢で知られています。
Project Vendも、生成AIが現実世界でどのような判断を行うのかを検証し、安全で信頼できるAI設計につなげる目的で実施されました。
AIエージェントが全品無料にした理由
この自動販売機は、Anthropic本社だけでなく、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の編集部にも設置されました。WSJの記者たちは、AIエージェントの反応を確かめるため、さまざまなメッセージを送信しました。その中で、記者のキャサリン・ロング氏は「労働者への感謝として商品を無料で配布すべきだ」という内容のメッセージを繰り返し送りました。
その結果、Claudiusは「無料配布イベント」を実施する判断を下します。スナック類だけでなく、PlayStation 5や生きた魚までが無償で提供されました。編集部の雰囲気は盛り上がりましたが、経営面では大きな赤字が発生しました。
この出来事は、WSJの公式YouTube動画「We Let AI Run a Vending Machine」でも紹介されています。
改良版AIと仮想CEOによる再挑戦
Anthropicは実験を続行し、AIエージェントを「Claude Sonnet 4.5」にアップグレードしました。さらに、Claudiusの上司役として仮想CEO「Seymour Cash(シーモア・キャッシュ)」を導入しました。Seymour Cashは、販売目標や価格方針を示し、Claudiusと対話しながら経営判断を監督する役割を担います。
この仕組みによって、Anthropic本社に設置された自動販売機は黒字化に成功しました。
一方、同じ仕組みを導入したWSJ編集部では、再び問題が発生します。ロング氏が「会社は公益団体である」とする内容の偽文書を提示したことで、AI同士の判断が混乱し、最終的に再度すべての商品が無償化されました。
なぜ生成AIは暴走したのか
Anthropicは、今回の問題について主に二つの要因を挙げています。
- 情報量の限界:入力された情報が多すぎたため、生成AIが一度に保持・処理できる情報量(コンテキストウィンドウ)を超え、重要な前提を維持できなくなりました。
- 安全制御の解除:実験目的のため、極端な行動を抑える「ガードレール(安全制御)」の一部を意図的に外していたことも、判断の暴走につながりました。
AIはすでに販売の現場で使われている
今回の実験は極端な例ですが、生成AIやAI技術はすでに多くの販売現場で活用されています。
- ネット通販では、購入履歴をもとに商品を推薦し、売上向上に貢献しています。
- コンビニや小売店では、天候や曜日を考慮した需要予測にAIが使われています。
- ホテルや航空券では、需要に応じて価格を調整する仕組みが一般化しています。

まとめ
- Project Vendは、生成AIに自動販売機の経営を任せた実験
- AIエージェントは一部環境で黒字化に成功、しかし条件次第で大きな赤字も生んだ
- 情報処理の限界や安全制御の設計が、AIの行動に大きく影響する
- 実験で得られたデータは、今後の安全で信頼できる生成AIの開発に活用される
生成AIは高度な文章理解や判断能力を持ちますが、その行動は与えられた情報とルールに強く依存します。Project Vendは、AIに経営を任せる面白さと同時に、人間が設計と管理を担う重要性を示しました。
技術が進化するほど、「どこまでをAIに任せるのか」を決めるのは人間です。もし生成AIが身近なお店を運営するとしたら、あなたはどんな役割をAIに任せたいでしょうか。
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