AIを使った監視システムが、社会の安全を支える重要な技術として注目を集めています。しかしその一方で、思わぬ誤作動が起きてしまうこともあります。

アメリカではスナック菓子の袋が「銃」と誤認され、警察が出動する事態になりました。防犯に役立つはずのAI監視は、どのような仕組みで動いているのでしょうか。そして、信頼性やプライバシーとのバランスはどのように確保されるべきなのでしょうか。

AIがドリトスの袋を「銃」と誤認した事件

2025年10月、アメリカのメリーランド州にあるケンウッド高校で、16歳の男子生徒が武装警官に取り囲まれ、手錠をかけられる事件が起きました。
アメフトの練習後、友人とドリトスを食べていたところ、監視カメラのAIが彼の手にしたスナック菓子の袋を「銃」だと誤って検知したのです。通報を受けて約8台のパトカーが現場に駆けつけ、生徒は地面に伏せさせられました。
このAIシステムはOmnilert社のもので、カメラに映る物の形や影から銃を自動で判断します。しかし、今回は袋のしわや光の反射、指の形を銃と誤認識してしまいました。Omnilert社は「システムは迅速な人間による確認を通じて安全を最優先するという意図通りに機能した」とコメントしましたが、生徒側には学校からの連絡はなく、精神的なショックが残る結果となりました。

世界と日本のAI監視システム導入事例

この事件で注目されたAI監視システムは、すでに世界中で導入が進んでいます。

地域/国使用場所主な目的
アメリカ学校・商業施設・病院銃器検知・学校安全管理
フランスパリ2024五輪会場群衆監視・不審物検知
シンガポール街頭監視カメラ「PolCam」9万台不法投棄・犯罪の早期発見
イギリス空港や商業施設顔認証と行動分析による防犯対策
日本学校・鉄道・商業施設・工場侵入検知・安全監視・業務効率化

日本では、くら寿司が不衛生行為を検知するシステムを導入したり、建設現場でAIが作業員の危険行動を24時間監視して労災を防いだりする活用例があります。
また、警察や自治体もAI搭載の防犯カメラを使い、不審者の追跡や事件発生後の映像解析に役立てています。

AIの学習方法と精度の課題

AIカメラは、過去の映像データを基に「学習」して判断能力を身につけます。例えば、犬と猫の写真を大量に見せて違いを学ばせる「教師あり学習」や、AI自身が試行錯誤して最適な答えを見つける「強化学習」といった方法があります。

銃検知AIのような視覚分析は、人間の脳の仕組みを模した「ディープラーニング(深層学習)」という技術で、AIが自ら画像の特徴を見つけ出します。しかし、光の加減や角度の違いに影響されやすく、誤検知のリスクが残ります。
実際に、ニューヨーク地下鉄で試験導入された検知器は、誤検知率が85%に達したと報じられました。精度を上げるには、様々な状況のデータを学習させることと、最終的な人間による確認が不可欠です。

プライバシーと共存する新しい防犯の形

AI監視技術は進化を続けています。アメリカのスタートアップ「Hakimo」は、侵入者をAIが検知すると、即座にスピーカーで警告を発する自動警備システムを開発しました。これにより、警備員が到着するまでの時間を稼ぎ、犯罪発生率を下げたと報告されています。

一方で、技術が高度化するにつれて、プライバシー保護が世界的な課題となっています。AIが誰を、いつ、どこで監視しているのか。その情報の透明性をどう確保するかが、今後の大きなテーマです。

まとめ
  • AI監視は防犯だけでなく安全管理や効率化にも活用が進む
  • 誤検知は光や角度など環境差で発生しやすい
  • データの多様化と人間の確認が精度向上の鍵
  • プライバシー保護と透明性確保は今後の最重要課題

AI監視技術は、私たちの安全を守る強力なツールですが、万能ではありません。この技術とどう向き合い、どんなルールを作れば、私たちは安心して暮らせる社会を築けるのでしょうか。皆さんもぜひ考えてみてください。