VRで火傷“体感”。九州大学が開発した光熱触覚刺激デバイスの仕組み|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

九州大学の亀岡嵩幸助教は、仮想現実(VR)で「熱っ!」と感じさせる光熱触覚刺激デバイスを開発した。高輝度LEDで温めながら皮膚を吸引して刺激する。熱いコーヒーに指を入れたような刺激を感じる。VRコンテ...

みなさんは、VR(仮想現実)の世界で本当に「熱い!」や「痛い!」と感じることができると思いますか?
九州大学の研究チームが開発した「光熱触覚刺激デバイス」は、VR体験をさらにリアルに進化させる新しい技術です。高輝度LEDと皮膚を吸引する仕組みを組み合わせることで、まるで本物の火傷や熱さを体感できるようになりました。
ゲームや安全教育、医療など、さまざまな分野で活用が期待されるこの技術の仕組みと可能性について、一緒に探ってみましょう。

九州大学の光熱触覚刺激デバイスとは?

九州大学の亀岡高幸助教が開発した「光熱触覚刺激デバイス」は、VRの中で熱さや痛みを感じさせる革新的な装置です。
このデバイスは、高輝度LED(発光ダイオード)で皮膚を温めながら、同時に皮膚を吸引して刺激を与えます。たとえば、熱いコーヒーに指を入れたときのような感覚を正確に再現できるのです。

従来のVR技術では視覚と聴覚のみでしたが、この技術により触覚と温度感覚が加わります。熱と機械的な触覚刺激を組み合わせることで、VRの表現力を飛躍的に向上させました。

技術の仕組み:LEDと吸引の巧妙な組み合わせ

熱刺激の仕組み

熱は10ワットの高輝度LEDで発生させます。手の甲に15ミリメートル離して照射すると、わずか10秒で体温の32度から36.5度まで上昇します。LEDを皮膚に密着させると、さらに速く温度を上げることが可能です。

人の肌は40度付近から「灼熱感」を感じ始めるため、このLEDの熱量でも十分にリアルな熱さを体験できます。まさに熱い風呂に入ったときのような感覚を再現できるのです。

触覚刺激の革新
触覚刺激は、皮膚を吸引することで与えられます。吸引部分は透明な素材で構成されており、光刺激と吸引刺激を一つの小さなデバイスにまとめています。これにより、皮膚の同じ箇所に熱と触覚の刺激を同時に提示でき、熱いものに触れた錯覚を生み出します。

実際のVRデモでは、コーヒーから立ち上る湯気に触れると温かさを感じ、コーヒーに指を入れると鋭い痛みを感じることができました。VR映像と触覚が組み合わさることで、より強い錯覚効果が生まれます。

デバイスの特徴と技術的優位性

このデバイスの最大の特徴は、そのコンパクトさにあります。サイズは2センチ×3センチで、厚みはわずか1ミリメートルです。この薄さにより、VR用のヘッドマウントディスプレー(HMD)に簡単に取り付けることができます。
額に装着すれば格闘ゲームで殴られた痛みを表現でき、手に装着すれば様々な物体の温度や質感を再現できます。軽量で装着感が良いため、長時間の使用でも疲労を感じにくい設計となっています。

幅広い応用分野での活用可能性

ゲーム・エンターテインメント分野

  • VRゲームでのリアルな体験向上
    格闘ゲームでパンチを受けたときの痛みや、熱いものに触れたときの感覚を再現し、ゲームの没入感を大幅に向上させます。
  • 体感型アトラクション
    テーマパークで火や氷などの自然現象をリアルに感じる演出が可能になります。

安全教育・訓練分野

  • 火傷事故の疑似体験
    飲食店でのコンロやフライヤーによる火傷事故をVRで体験し、危険を事前に学ぶことができます。
  • 消防士や医療従事者の訓練
    火災現場や緊急医療の現場をVRで再現し、熱や痛みを体感しながら実践的な訓練が行えます。

医療・リハビリテーション分野

  • 痛みの再現による治療
    患者が安全に痛みを体験することで、痛みへの耐性向上やリハビリ効果の向上が期待されます。
  • 医療技術トレーニング
    手術や処置の際の感覚をVRで再現し、医療従事者の技術向上に貢献します。

遠隔コミュニケーション分野

  • 触覚の共有
    離れた場所にいる家族や友人と温もりや触感を伝え合い、物理的距離を超えた新しいコミュニケーションが実現します。

商品体験・ショッピング分野

  • オンライン商品体験
    ネット上で服や家具などの質感や温度を体感し、より納得して商品選択ができる未来が期待されます。
関連技術の動向

最近では、VR技術を使った安全教育や医療トレーニングが世界的に注目されています。消防士の訓練で火災現場の熱や煙をVRで体験する技術や、医療現場での手術シミュレーションなど、様々な分野で触覚技術の応用が進んでいます。
九州大学の光熱触覚刺激デバイスは、こうした技術トレンドの最前線に位置する革新的な発明といえるでしょう。

まとめ
  • 九州大学がVRで熱さや痛みを感じる光熱触覚刺激デバイスを開発
  • 高輝度LEDによる熱刺激と皮膚吸引による触覚刺激を組み合わせた革新技術
  • 2cm×3cm、厚み1mmの超小型設計でVRヘッドセットに装着可能
  • ゲーム、安全教育、医療、遠隔コミュニケーション、商品体験など多分野での応用が期待
  • VR映像と触覚刺激の組み合わせでリアルな体験を実現

この光熱触覚刺激デバイスは、VRの世界をよりリアルにし、私たちの体験を根本的に変える可能性を秘めています。将来的には、医療、教育、エンターテインメント、ビジネスの各分野で新たな価値を創造するでしょう。

みなさんは、この技術をどんな場面で使ってみたいですか?また、リアルな体験が増えることで、どのような新しい職業やビジネスモデルが生まれると思いますか?技術の進歩は常に新しい可能性を生み出します。自分の将来の夢や社会の変化について、この革新技術を通じて考えてみるのも興味深いかもしれません。VRと触覚技術の融合が切り開く未来に、ぜひ注目してください。