「ビジュアル吹き替え映画」が初公開に。言語の壁は“視覚的にも”解消されていく | ギズモード・ジャパン
アメリカの映画館チェーンAMCシアターズが、映画業界にとって画期的とも言える技術を導入しました。外国語の映画を自国の言葉に吹き替えするさい、音声だけでなく“視覚的にも吹替”するというビジュアル・ダビングです。今までの吹替では、どうしてもセリフと口の動きが完璧には合いませんが、AIリップシンク(音声と口の動きを合わせる技術)でぴたりと合わせられます。「言葉の壁」が視覚的にも解消される、ということで
外国語映画を見ていて「口の動きとセリフが合っていない」と感じたことはありませんか?そんな違和感を解消する新しい技術が登場しました。
2025年3月、スイス映画『Watch the Skies』で初めて導入された「AI吹き替え(ビジュアルダビング)」は、俳優の唇の動きまで自然に再現する革新的な仕組みです。技術の仕組みから、映画業界への影響、倫理的課題までを考えてみましょう。
AI吹き替えの仕組みとは?
AI吹き替えは、以下の3つのステップで映像に自然な口の動きを再現します。
- 音声分析:吹き替え音声の周波数やリズムをAIが解析
- 顔面マッピング:俳優の顔の筋肉や動きを3Dでモデリング
- リアルタイム調整:映像のフレームごとに口の動きを修正
この技術により、「あ」「い」「う」などの母音の口の形もリアルに表現され、違和感が大幅に軽減されます。
なぜ注目されているのか?映画業界の変化
AI吹き替えが広がると、次のようなメリットがあります。
- 字幕の負担軽減:観客の85%が「字幕で映像を楽しめない」と回答(2024年調査)
- コスト削減:従来の吹き替え費用を最大60%削減可能
- 作品の国際展開が容易に:多言語対応が迅速かつ低コストに
2024年の韓国映画『Digital Shadow』では、AIを使って32言語版を同時に制作。小規模な映画会社でも世界配信が現実になりつつあります。
人の権利はどう守る?俳優組合の対応
AIの活用により、俳優の顔や声が無断で使われる懸念も出てきました。これに対応するため、アメリカの俳優組合SAG-AFTRAは以下のようなルールを設けました。
- 使用には事前同意が必要
- デジタル再現ごとに報酬支払い(基本報酬の15%)
- データ保存は最長5年まで
また、2024年11月には、故人の俳優のAI復元に関するガイドラインも制定。遺族の同意がなければ、没後20年以内の復元は禁止されます。
課題とリスク
便利なAI吹き替えにも、以下のような課題があります。
- 雇用の影響:吹き替え俳優や技術スタッフの需要減少
- 倫理的問題:ディープフェイク悪用や無意識の文化偏見の懸念(2024年AI倫理白書)
- 技術の限界:方言・スラングへの対応や感情表現の再現が難しい
AI活用はどこまで?関連技術の進化
映画制作には、他にもAIの活用が広がっています。
- ScriptGenius:観客の反応を予測する脚本チェックAI
- Virtual Casting:過去の俳優データから最適なキャストを提案
- AI編集アシスタント:最適なカットを自動提案
ディズニーは2024年、AI制作の短編アニメ『Pixel Dreams』でエミー賞の技術部門を受賞。ただし、脚本の75%は人間が修正しています。

映画ビジネスの未来:AIが生む新しい仕事
AI吹き替えは、経済にも大きな影響を与えると見られています。
- 2025年の市場予測:吹き替え市場は1.2兆円規模に拡大(前年比+40%)
- AI関連の特許出願数も増加(年500件超)
- 新しい職業も登場:AI倫理監修者、文化翻訳スペシャリスト、感情マッピングエンジニアなど
まとめ
- AI吹き替えは映画をもっと身近にし、世界に広げる力を持つ
- 俳優や制作者の権利保護もあわせて進める必要がある
- 雇用や倫理の課題もあるが、新しい仕事のチャンスも生まれる
- 技術と文化のバランスをどう取るかがカギ
もしあなたが映画を作るなら、AI吹き替えをどう使いますか? 古い名作のリメイクに使う? 視覚障害者向けにナレーションを自動で入れる? 技術が進む中で、何を大事にしたいか、自分なりに考えてみてください。次に映画館で吹き替え版を観るときは、ぜひ口の動きにも注目してみましょう。